2026年5月10日 · 読み物
ザソール——力士の称号を歌い上げる男
力士は皆、介添人を従えて土俵に入ります。ザソールの詠唱は、モンゴル・スポーツの生きた記録なのです。
ナーダムでどの取組を観ても、決して組み合わない2人の男が目に入るはずです。各力士のかたわらに立ち、帽子を手にするザソール(介添人)です。取組の前、ザソールは力士がキャリアを通じて重ねてきた称号の系譜——ナチン、ザーン、アルスランのひとつひとつ——を高まる詠唱で歌い上げます。それは紹介であると同時に、相手への威嚇でもあります。
ザソールは、コーチであり、セコンドであり、吟遊詩人でもあります。回戦の合間には力士を落ち着かせ、男の誇りの宿る帽子を預かり、勝負が決すれば、勝者が旗のまわりで鷲の舞を舞う間、敗者が上衣に触れる敬意の所作を受け止めます。
詠唱に決まった文句はありません。それぞれのザソールが伝統の型のなかで自ら紡ぎ、名人はチャンピオンと同じくらい鮮明に人々の記憶に刻まれます。ナーダムがその記録を、記録簿ではなく生きた声で受け継いでいることの、これもまたひとつの証なのです。

